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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)3454号 判決 1972年9月11日

原告 小布施久子 外二名

被告 国

訴訟代理人 武内光治 外二名

主文

原告らの請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は、原告らに対し、別紙物件目録一記載の土地を金二九一円〇三銭、同二記載の土地を金二九七円七四銭でそれぞれ売渡す旨の意思表示をせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  被告は、昭和二四年二月五日、自作農創設特別措置法(以下自創法という)第三条および第一五条に基づき、訴外小布施民蔵から別紙物件目録一、二記載の土地(以下それぞれ本件一の土地・本件二の土地といい、両者を総称して本件土地という)を金二九一円〇三銭、金二九七円七四銭で各々買収した。

(二)  しかし、その後、本件土地は売渡がなされないまま、その周辺一帯の土地とともに、昭和四五年一二月二六日東京都告示第一四〇九号により、市街化区域に指定されるに至つた。

(三)  ところで、昭和四六年法五〇号による改正前の農地法(以下単に改定前の農地法という)八〇条第二項には、「農林大臣は、買収農地が政令の定めるところにより、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときは、買収前の所有者又はその一般承継人に、買収の対価に相当する額で売り払わなければならない」旨の規定があり、これを承けて、農地法施行令第一六条は、「法四条一項五号に規定する市街化区域内もしくは市街化傾向の著しい区域内にあるその他の土地等については、右の認定をしなければならない。」旨定めていた。

(四)  したがつて、訴外小布施民蔵(昭和二七年二月二一日死亡)の相続人である原告らは、被告に対し、右農地法八〇条により、本件土地を買収価額、すなわち、本件一の土地につき金二九一円〇三銭、本件二の土地につき金二九七円七四銭で売払請求をなす権利を有するものである。

(五)  ところが、昭和四六年三月二九日「国有農地等の売払いに関する特別措置法」(以下特別措置法という)が制定されて、同年五月二五日施行となるに伴い、同月二二日「国有農地等の売払いに関する特別措置法施行令」(以下施行令という)が制定・施行された。

右特別措置法二条は、国有農地等の売払の対価は、適正な価額によるものとし、政令で定めるところにより算出した額とすると定め、施行令一条は、右売払いの対価は、その売払いに係る土地等の時価に一〇分の七を乗じて算出すると定め、かつ、特別措置法附則二項は、「この法律は、この法律の施行の日以後に農地法八〇条二項の規定により売払いを受けた土地等について適用がある」旨の定めをなしたため、原告らは、前項記載の買収価額による売払請求権を喪失するに至つた。

(六)  しかし、右特別措置法および施行令は次のとおり憲法に違反し無効である。

1 特別措置法二条は、憲法二九条に違反する。

自創法三条に基づき被告が買収した農地のうち、都市計画区域内にある農地については、都市の将来を考慮し、一定の場合、小作農への売渡が保留されているが、本件土地の如きこれらの売渡保留農地は、自作農の創設に供するという公共の福祉のために買収したものでないこととなり、結果的には不必要な買収をしたことになるとして、憲法二九条の規定する財産権保障の憲法上の要請に応えて、その買収対価に相当する額で旧所有者の回復を認めたのが農地法八〇条による国有農地売払請求権である。しかるに、特別措置法二条は、その売払いに関し、対価を「適正な価額」によるものとし、時価もしくはそれに近い金額で売払うべきものとしているが、かくては、旧所有者の買収農地に対する回復権は実質的に否定されることとなるばかりでなく、買収農地を特定の公益目的に供さずに、旧所有者ならびにその一般承継人に買収対価以上の価額で売り払い、多額の利益を享受せんとするものであつて、憲法二九条の趣旨に反するから、斯かる特別措置法の規定は無効である。

2 特別措置法附則二項ないし四項は、憲法二九条に違反する。

改正前の農地法八〇条二項による国有農地売払請求権は、買収地が自作農創設等の目的に供しないことが相当であるという事実が客観的に生ずると同時に、具体的に発生するものであるから、原告らは、特別措置法制定以前に、本件土地についての具体的な売払請求権を有するものである。ところが、特別措置法は、その附則において、特別な場合を除いては、従前の農地法八〇条二項後段の規定の例により買収対価に相当する価額で売り払うべき旨の経過措置を定めていないから、特別措置法二条の規定は、原告らにも適用があることになり、原告らはすでに具体的に発生している買収対価に相当する価額による本件土地についての売払請求権を奪われることになる。このことは、財産権の保障を規定する憲法二九条に違反するから、斯かる附則の規定は無効である。

3 特別措置法二条は、憲法一四条に違反する。

前述のとおり、原告らは、改正前の農地法八〇条二項に基づき、本件土地につき買収価格による売払請求権を有していたところ、特別措置法二条施行令一条により国有農地の売払い価額は、売払いに係る土地等の時価に一〇分の七を乗じて算出した価格とすることに改められたため、原告らは、坪当り約二円五〇銭で売払いを受け得たのが、右の時価の一〇分の七の価額を支払わねばならなくなつた。このことは、国有農地につき既に売払いを受けた旧所有者と、これから売払いを受けようとする旧所有者との間に立法による不合理な差別をなすものであるから、かかる差別的取扱を認めた特別措置法二条は、憲法一四条の法の下の平等の原則に違反し、無効である。

4 施行令一条は、特別措置法二条に違反しかつ憲法二九条、七三条六号に違反する。

特別措置法二条は、改正前の農地法八〇条二項が国有農地売払いの対価を「買収の対価に相当する額」と定めていたのを、その後における貨幣価値の下落に対応させる必要から、「適正な価額によるものとする」と定めたのであるから、それを具体化すべき政令は、右の立法趣旨に反してはならないことはもちろんであるのみならず、すでに述べたように憲法二九条にその根拠を有する国有農地売払請求権の性質に適合したものであることが必要である。したがつて、ここにいう適正な価額とは、「買収の対価に相当する額」に年五分の利息を付したものとする(民法五四五条二項)かこれを物価指数により換算したものとするかでなければならないはずである。しかるに、特別措置法二条を承けて、制定された施行令一条は、国有農地売払いの対価は、その売払いに係る土地等の時価に十分の七を乗じて算出するものとすることと定めているから、右規定は、明らかに特別措置法二条の委任の範囲を逸脱するもので、憲法七三条六号、二九条に違反する無効なものである。

(七)  したがつて、原告らは、被告に対し、本件土地につき買収価額で売払いを請求する権利を有するので、昭和四六年四月一二日到達の書面で、被告に対し、右売払い請求の意思表示をしたが、被告はこれに応じない。

(八)  よつて、原告らは、被告に対し、請求の趣旨記載の意思表示をなすことを求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)ないし(三)の事実は認める。ただし、買収の時期は、昭二二年一二月二日である。

(二)  同(四)の事実中原告らが訴外小布施民蔵の相続人であることは認めるが、その事実は知らない。

(三)  同(五)の事実は認める。

(四)  同(六)の主張は争う。

(五)  同(七)の事実中、原告らが、昭和四六年四月一二日被告到達の書面で本件土地についての売渡請求の意思表示をしたが被告が応じなかつたことは認めるが、その余の事実は争う。

三  被告の主張

(一)  特別措置法二条の合憲性

自創法による被買収地である国有農地につき、旧所有者にその売払請求権を認めることは、憲法二九条の要請ではなく、単に立法政策上の問題にすぎない。そもそも、自創法は、旧来わが国に存在していた前近代的な農地所有関係を消滅させることにより、農村の民主化を図ることを主眼として制定されたものであり、その目的を果すため、同法は、不在地主の農地はすべて買収の対象とし、在村地主の農地についても一定の保有面積の限度を超えるものを買収することにしたのであつて、将来自作農創設の目的に供することが不相当な土地となることが予測されるか否かを問わず、原則として自作農として自ら耕作する一定限度の農地以外はすべて買収の対象とした。

そして、被買収者たる旧所有者に対しては正当な補償がなされ、これにより、被告は完全な所有権を取得し、もつて自創法の第一の目的は達成されたのである。もちろん、自作農創設のため、かかる買収農地をさらに小作農に対し売り渡すことも、農村の民主化を図る積極的・建設的な第二の施策として、自創法の目的ではあるが、同法の主たる目的は、何よりも先ず農村の封建性を打破するための農地買収そのものにあつたのである。

したがつて、買収後において、たとえ買収農地が自作農創設の目的に供することが不相当となつたとしても、本来買収すべきでないものを強制買収したことになるとして、強制買収そのものが無効となつたり、あるいは、これを旧所有者に返還しなければ憲法違反になるという問題は全く生ずる余地がなく、これを買収対価に相当する価額で旧所有者に売払わなければならないとする要請は憲法上存しないのであつて、旧所有者に対し売払請求権を認めるか否か、またその売払対価をどうするかは、専ら立法政策上の問題にすぎないのである。しかし、自作農創設等の目的に供することが不適当となつた農地につき、旧所有者の感情を尊重し、旧所有者に対し当該買収農地について買受けの機会を優先的に認め、しかも、当時においてはその売払価額も買収対価に相当する価額とするのが立法政策上妥当であるとして改正前の農地法八〇条二項の規定が設けられたのである。そして、今日においても、旧所有者に優先的な買受請求権を認めることは立法政策上なお妥当な措置ではあるが、その売払価額を買収対価に相当する価額として据置かなければならないとする立法政策上ないしは法律上の要請は存せず、むしろ、経済事情の変動に応じ必要な修正を加えることが立法政策上妥当であつて、これを今日においてもなお買収対価に相当する価額とすることは、かえつて立法政策上極めて不適当である。そこで、特別措置法により右売払価額につき改正がなされたのであるが、右改正によれば、右売払価額は、適正な価額として政令で定めることとし、右委任に基づき施行令一条は、時価の七割に相当する額を売払価額としたのであるから、このことは、なんら旧所有者の売払請求権の行使を困難ならしめるものではなく、従来の経緯に照らして妥当な立法措置といえる。

以上の如く、特別措置法二条および施行令一条は憲法に違反するものではない。

(二)  特別措置法の遡及適用の合憲性

改正前の農地法八〇条二項による国有農地の売払いは、一般国有財産の払下げと同様に、私法上の売買であるから、その売買価額は、契約成立時において決められるべきものであり、対価が法定されている場合であつても、契約成立時における法定価額によることは当然である。

仮りに、改正前の農地法八〇条二項の規定に対応し、旧所有者の当該買収農地についての売払請求権が客観的に生じた時点において、その当時法定されていた売払価額(すなわち買収対価相当額)で売払いを受け得るという期待が、旧所有者にあつたとしても、それはあくまでも事実上のものであり、法律上売払いが当該買収対価相当額によらなければならないとする法律上の地位ないし権利が付与されたのではない。このことは、改正前の農地法八〇条二項の規定が、農林大臣が売払う際に、その対価として買収対価相当額によるべきものとしていて、旧所有者が買収対価相当額で売払いを請求できるとは規定していないことからもうかがうことができる。換言するならば、改正前の農地法八〇条二項は、旧所有者に実質上当該買収農地の売払請求権を付与しているが、買収対価相当額をもつてする当該買収農地の売払い請求権までも付与したものではなく、単に、農林大臣に対し、旧所有者から申込みがあれば、優先的に当該買収農地を売払うべき義務を課したのであり、この義務に対応して、旧所有者が売払請求権を有するにすぎない。そして、農林大臣が売払う場合においては、その売払価額は買収対価相当額によると法定されていたのにとどまるのであるから、改正前の農地法八〇条二項後段の規定が削除され、別途特別措置法二条および施行令一条の規定が設けられたことにより、右売払価額が変更された場合には、変更後の売払については、当然その際に法定されている売払価額によるべきであつて、この価額に基づいて旧所有者に売払つたとしても、旧所有者の有する財産権を侵害したことにはならないのである。

よつて、特別措置法を原告らの売払請求に対し適用しても憲法二九条に違反するものではない。

第三証拠<省略>

理由

一  当事者間に争いのない事実

被告が、自創法三条および一五条に基づき、原告ら先代の訴外小布施民蔵所有の本件一、二の土地を、それぞれ二九一円〇三銭、二九七円七四銭で買収したこと、しかし、本件土地は、売渡されないまま、周辺一帯の土地とともに、昭和四五年一二月二六日東京都告示第一四〇九号により市街化区域に指定されるに至つたこと、そこで、前記民蔵(昭和二七年二月二一日死亡)の相続人である原告らは、改正前の農地法八〇条二項により、本件土地につき右買収価額で売払いを請求する権利を有するものとして、昭和四六年四月一二日到達の書面で、被告に対し、右売払いを請求する意思表示をしたこと、ところが、これより先同年三月二九日特別措置法が制定され、同年五月二五日これが施行されるに伴い、同月二二日施行令が制定、施行された結果、同法二条、同令一条によれば、買収農地の旧所有者およびその一般承継人に対するその売払い価額は、当該農地の時価に一〇分の七を乗じて算出した額とすると改められ、同法附則二項により、この法律の規定は、原告らにも遡及して適用されることになつたことは当事者間に争いがない。

二  憲法二九条違反の主張について

原告らは、特別措置法二条および同法附則二項ないし四項の規定が憲法二九条に違反して無効である旨主張するので、まず、この点について判断する。

自創法三条に基づく農地の買収は、同法一条においてその目的として定められているところから明らかなように、自作農の創設とともに、農業生産力の発展ならびに農村の民主化を目的とするものであつて、その目的を達成するため、農地所有者がみずから耕作する一定限度以外の農地のすべてをその対象(同法三条一項一号ないし三号)とし、第二次大戦後におけるわが国社会の民主化の一環として、広く前近代的な農地所有関係の消滅を企図し、かつ正当な補償のもとに行われた(最高裁昭和二八年一二月二三日大法廷判決民集七巻一三号一五二三頁)ものであるから、当該買収地周辺が市街地化する等、その後における社会、経済情勢の変動の結果、当該買収地を自作地として売渡すことを適当としない事情が発生したとしても、そのことから直ちに、右買収が本来なすべからざるものであつたことになるわけではなく、また、なんらの法律上の規定をまたずに、憲法上当然の要請として、その買収農地を旧所有者に返還すべきものとなるものでもない。

しかしながら、いうまでもなく、自創法に基づく農地の買収は、国家権力による国民の財産権の強制的な収用にほかならないから、これをその収用の目的となつた公共の用に供しない場合においては、旧所有者にそれを回復する権利を認めることは、立法政策として十分合理性を有するものというべきであつて、改正前の農地法八〇条が、買収農地を自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする場合に、当該買収地につき、旧所有者およびその一般承継人に買収対価に相当する価額で売払いを請求する権利を認めたことは、かかる趣旨によるものと解すべきであつて、自創法に基づくいわゆる農地改革施行後さほど時を経ていない改正前の農地法の制定、施行当時においては、立法政策上妥当な措置として、これを是認することができる。したがつて、その後における社会、経済事情の変動が、このような規定の存置を相当としなくなつた場合において、これに改正を加えること、これを本件に即していえば、顕著な事実というべきその後における著しい地価の高騰等の社会、経済事情の変動に即応させるべく、右売払い価額を適正な価額によることとする旨改正して、時価の一〇分の七の価額とすることも、立法政策上の考慮に基づき、これをなしうるところというべきであつて、そうすることが直ちに憲法二九条に違反するものではない。

もつとも、改正前の農地法八〇条によれば、当該買収農地が自作農の創設または土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当とする事由が客観的に生ずると同時に、右買収農地の旧所有者またはその一般承継人は、当該農地を買収対価に相当する価額で売払うべきことを求める権利を取得する(最高裁昭和四六年一月二〇日大法廷判決民集二五巻一号一頁参照)と解すべきであるから、原告らは、昭和四五年末、本件土地が市街化区域に指定されたときに、すでに、本件土地について買収対価に相当する価額での売払い請求権を有するに至つたものというべきである。そうすると、前記法改正の結果は、原告らにいつたん与えられた買収価額相当額によつて売払いをうけうる利益を、事後の立法によつて剥奪することとなることは否定できないところであるといわなければならない。しかし、翻つて考えるに、自創法に基づくいわゆる農地改革後すでに二〇年余を経過し、その間における諸々の社会、経済事情の変動は、当初予想し得たところをはるかに越えるものがあるというべきであり、就中、地価の高騰は法外ともいうべきものであるから、改正前の農地法八〇条の規定をそのまま存置するにおいては、一般の土地売買取引の例に対し余りに均衡を失することになり、社会共同生活の調和を乱すこと著しいものがあつて、その結果は、たとい買収農地売払制度の前記趣旨を考慮しても、なおこれを容認すべき合理性をみいだすことができなくなつているというべきである。それ故、改正前の農地法八〇条が予定していた買収対価に相当する価額による買収農地の売払い請求権は、もはや、明らかに不合理なものとなつており、憲法二九条による保護に価しないものと化していたというべきであつて、これを前記の如き社会、経済情勢の変動に対応させるべく、特別措置法二条(及び同法附則四項)は、その売払い価額を買収農地売払制度の趣旨を没却せず、しかも現下の土地政策上の要請に叶うものとする趣旨で、これを適正な価額によるものとし、時価を基準としつつその軽減を図ることにしたものと解されるから、右特別措置法二条の規定は、却つて財産権の内容は公共の福祉に適合するよう定めるとの憲法二九条の法意に合致するものというべきであり、同法施行前に発生している買収農地売払請求権についてその適用を認める同法附則二項等の規定も立法上許容される範囲内のものと解すべきである。(そして、この理は、講和条約の発効に伴う国内法令の整備に際し、自創法に基づく農地改革の諸原則の維持、継続を目的として制定された農地法に基づいて買収された土地についても、かわるものではない。)

したがつて、この点についての原告らの主張は、いずれも失当であつて、採用することができない。

三  憲法一四条違反の主張について

次に、原告らは、特別措置法二条が憲法一四条に違反する旨主張するが、同法が制定施行された結果、今後右規定に基づき買収農地の売払いを受ける旧所有者と、すでに改正前の農地法八〇条の規定に基づいて売払いをうけた旧所有者との間に、売払い価額について極端な違いが生じ、それによつて享受すべき経済上の利益に著しい不均衡をもたらすことは、原告らの指摘するとおりであろう。

しかし、憲法一四条にいう法の下の平等とは、同条が列挙する事由のように、なんら合理的な理由なしに、法律上差別的な取扱をしないことをいうものであつて、法律改正の結果、その前後において、同一の生活関係についても、必ずしも同一の法的取扱がなされない事態が生ずるとしても、本件特別措置法によるそれのように、その法律改正自体が前項説示のとおり是認すべきものである以上は、やむをえない結果として、これを承認すべきであつて、このことが直ちに憲法一四条にいう法の下の平等の趣旨に反するものではないと解すべきであるから、原告らの右主張も採用できない。

四  憲法七三条六号違反の主張について

なお、原告らは、施行令一条が憲法七三条六号に違反するというが、施行令一条が、特別措置法二条の適正な価額の具体化として、買収農地売払いの対価を、その売払いに係る土地等の時価に一〇分の七を乗じて算出するものとすると定めたことが、右特別措置法二条の立法趣旨に照らし、その委任の範囲を逸脱しないものであり、これが憲法七三条六号あるいは同法二九条に違反するものでないことは、前記二項に説示したところから明らかであるというべきである。

五  結び

以上の次第であるから、改正前の農地法八〇条所定の売払価額のみによるものとして本件土地の売払を求める原告らの請求は、理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司 落合威 栗栖康年)

物件目録<省略>

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